ある詩人の場合 第14回


詩人と広告の仕事

同じ会社で働いて3年が経った。
社会人18年目にして、同じ会社で4年目を迎えるのは人生初である。
今まで長くて2年半しか続かなかった。
転職をしまくっているため、履歴書に全部の職歴が入らない。適宜省略している。

現在私は広告の仕事をしている。
以前にも広告の仕事をしたことはあったが、一度辞めて3年のブランクを経て、また広告の仕事に戻った。
広告の仕事は、普段努力しなくても好きでやっていることが仕事に役立つところが合っている。
例えば新聞やラジオが異常に好きなこと、ローカルタレントについてどこまでも調べること、イベントに頻繁に出かけること、フリーペーパーが好きなことなどだ。
しかし激務であり、あまり女性に優しい業界とは言いがたい。
私はさっさと結婚して、家庭を維持できる範囲で働きたいと昔も今も思っている。
独身だとどこまでも仕事をしてしまう。
今ならある程度のところで見切りをつけたり、あえて休息を取ったりできるのだが。
最初の代理店にいた頃はそんな加減もできずに、生活にもっと余裕や余白があったら良いのにという気持ちが高まり、辞めることにした。

私はもっと女性がたくさんいる業界で働きたいと思った。
女性がたくさんいる業界は、女性に優しく働きやすいのではないかと考えたのだ。
なかなか仕事が決まらず半年近く経った。
さすがにまずいと思い、何でもいいからとにかく派遣で働くことにした。
あまり向いているとは思えない業界だったが、何とか楽しみを見いだそうと努力した。
一緒に働く人はみんないい人なのだが、どうしても価値観や興味の矛先が合わなくて会話に苦労した。
いろんな意味で、本来の自分が発揮できないことが苦しかった。
一年ちょっとで契約終了した。

その頃書いたのが「似合わない服を着る」という詩だ。
詩集『パスタを巻く』の中で、作者だけが強く推している詩。
合わない仕事のことを、似合わない服で例えている詩だ。

次に割と興味のある業界で働いた。
仲良くなれる人もたくさんいたし、入社して割とすぐにバンドを結成してライブまでした。
私は総務・経理の部署にいたのだが、ある時、新卒採用をすることになった。
インターンシップに来た学生に、会社の特徴を説明することが楽しかった。
合同企業説明会で使う、のぼりのキャッチコピーも考えた。
就活学生に配布する会社案内を作るのも、やりがいがあった。
会社の良いところを伝えることが、何でこんなに楽しいのか。
私は新卒採用の仕事だけしたいとすら思った。

その話を前にいた代理店の先輩にした。
「あなたはやはりコピーライターの仕事がしたいのよ」
薄々自分でも思っていたし、ずっと誰にも言えなかった。
やはり多少多忙でも自分らしい仕事、生き方をしないとダメだと気付いた。
その先輩に勧められ、3年間のブランクを埋めるために、東京の宣伝会議のコピーライター講座に沖縄から通った。

そうして再び転がり込んだ広告業界。
コピーライターはあらゆるライターを網羅した仕事なのだと、今のコピーの師匠は語る。
確かにそうだと思った昨年。
お笑いの台本を書いたことが印象に残っている。
いつも見ている芸人さんの台本だったので、彼らになりきって書いた。
すると台本を読んだ芸人さんとマネージャーさんが「この台本、僕らのことをよく知ってくれている方が書いていますね」と言っていたと人づてに聞いた。

ここまで書いてきたが、続けることがすべてではないと思う。
大切なのは心身の健康。
それが脅かされそうになったら、休んだり辞めることも重要な選択肢だ。

■お知らせ
全国放送のラジオ番組に出演します!

NHKラジオ第1「本土復帰50年 沖縄のラジオはしかますっ!」
日/2022年5月3日(火・祝)
時/前半 08:05〜08:50
  後半 09:05~09:50
パーソナリティ:ひーぷー、池田伸子(NHKアナウンサー)
ゲスト:多喜ひろみ/狩俣倫太郎/島袋千恵美/トーマ・ヒロコ/與古田忠/三島わかな/山川悦史/奈良蓮/池城愛美/森田明

私は前半に登場します。
沖縄のラジオやラジオCMについて語ります。
沖縄の人気ラジオパーソナリティが多数出演します。
ぜひお聴きください。

■筆者information
【著者サイト】https://mumirock1.wixsite.com/hiroko-toma
【Twitter】@hirokotoma
【Instagram】@hirokotoma


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