SPECIAL INTERVIEW
第3回 ゲキ推しの1冊!
この沖縄本がスゴイ!
ぼくの沖縄《復帰後》史プラス
新城和博さん・出版社ボーダーインク
8月に発表された「ゲキ推しの1冊!この沖縄本がスゴい!」。
今年は新城和博さん著書『ぼくの沖縄〈復帰後〉史プラス(出版社・ボーダーインク)』選出された。
3年前から実施されている同賞、書店へ通う方は『この沖縄本がスゴい!』というポップは見たことがあるのではないだろうか?この賞が面白いのは「新刊から選出するわけではない」ところだ。
今回は実行委員会の大城さんに、賞が出来たきっかけや選出基準をご紹介いただき、今年受賞された新城さんの言葉と一緒にご紹介!
最後には11月21日開催のトークイベント詳細もご案内。
本屋さんに来て欲しい!ゲキ推しするにはワケがある!
主催は県内書店・取次店・出版社など本に関わる皆さん。オンラインやデジタル化に伴い本屋へ足を運ぶ人が大幅に減っている今、本屋を盛り上げて1人でも多くの人に来店のきっかけを作れたらと賞を設立。本に関わる様々な業種の人が垣根を越えて、一丸になって沖縄の本業界の未来を考えたイベントだ
●選考方法や先行基準はどんなものですか?
実行委員会・大城さん(大城書店)「各分野の代表で実行委員会を立ち上げ、話し合って1冊を決めます。それを目玉としてお客様に来ていただける1冊を目指します。選考は新書からに限っておりません。対象にしているのは『沖縄県内出版社の発行したもの』であることと、発売年月のしばりも設けず『過去に良書としてよく読まれたもの』、そしてその時期に関心が高い『タイムリーなジャンルのもの』を条件としています。特に今の時代にマッチしているかどうかは、大きな検討材料にしています」
●過去2回はどんな本が選ばれましたか?
「第1回は『復帰前へようこそ-おきなわ懐かし写真館(ゆうな社)』という、アメリカ統治時代の沖縄風景を中心とした写真集です。復帰前の写真集を扱うことで、その様子を見ながら当時を思い出したり、語り継ぎたい人がこの本を求めて、1ヶ月で5000冊が出ました。第2回は『絵でみる御願365日(むぎ社)』ですが、本来オリンピック開催年だったので、新時代の幕開けを感じる中で、沖縄の残していきたい風習を若い世代の方にも分かりやすく知って貰えたらとの思いで選んだんです」
●これは話題になったのを覚えています。
「選考委員に県外の方がいるので、移住者も増えてきた沖縄で、外から見てミステリアスなこの沖縄の世界に触れて貰えたらという、面白い意見の多い選考でした。出版社である『むぎ社』も注目され1年間で2万部が売れました。この2万という数は、東京で換算すると230万部程売れているくらいの、社会現象的なビックヒットです!」
●今年の選考はどんな部分がポイントでしたか?
「3回目の今年選ばれた『ぼくの沖縄〈復帰後〉史プラス(出版社・ボーダーインク)』ですが、初版は2014年発売・1970〜2014年の事が書かれたものでした。選考の対象になったのはそこから4年分を書き足し、2018年までの内容が書かれた増版本です。そして受賞が決まった報告をした際に記念として、さらに2019年・首里城焼失や2020年・コロナ禍などの出来事を加わえた、現在販売中の本が作られました。復帰50周年に入るに当たり、沖縄本土復帰の歴史が書かれた本はたくさん存在するものの、この本の様に作者自身の成長と共に描かれ、主観も入った本は少なく、その部分が面白いと思い選出しました。あるマスコミの方は、この本を沖縄の歴史辞書代わりにデスクに置いて、時代背景を確認していると話していました」
●今後、この賞の目標などはありますか?
「売りたい本を選ぶのではなく、その時代に響くものを見極めたいです。昨年の『絵でみる御願365日』はメインターゲットが決まっていたわけでは無いですが、主婦層を中心とした若い女性の間で話題になりました。ターゲット層や世代で違ってくるニーズなど、私達が想像しているもの以外の部分も見えてとても勉強になります。これからも先行する本は漫画・絵本・写真集・実用書など、ジャンルを越えて対象となります。1人でも多く県内の方に、本屋へ足を運んでいただく機会になるように、多くの本を紹介できたらと思います」
復帰後50年を次世代に繋ぐ、本は素敵な贈物
どうしてこの本が出来たのか、どんな事が書かれているのか、8月16日の授賞式で著者・新城さんがお話されたことの一部をご紹介。
「元々は新聞の復帰関係企画で書いたものでしたが、良い機会だと思いエッセイ方式で本にしました。生まれ育ちずっと那覇で暮らす中、復帰後40年の自分の生活に沖縄の出来事を絡めると、色んな事が蘇り記憶を掘り返すのも面白かったです。年月が経ったからこそ見える部分もあり、例えば私が高校生の頃に730でしたが、その時はこう思っていたのに30年や40年後の今はこう思うなと、年齢が違うと視点が異なると気がつける部分も面白いんです。読んだ方も自分がどうしていたか思い出し、それを経験してない世代も僕の生活は不思議とリアルに感じてくれるようで、親子でその出来事を話してもらったりすると嬉しいですね」
「この本の最初は2014年まで、それから4年分足した2018年までを書いた本が受賞し、今回書店に並んでいるのは受賞タイミングでさらに2年分を書き足した2020年までの内容です。娘が生まれたエピソードでは、1年後の1歳で一緒に県民大会に出ているんです。だから『復帰』を語るのではなく『復帰後』を振り返る重み、50年って色々あるんだと想像を膨らませながら読んでもらいたいです。そんな意味でも、これまで出した本の中で特殊な1冊です。物語を振り返る時、その内容や結果は熟成されているんですが、今起こっている事はわからないままを書いています。あとがきに『2021年、オリンピックは開催されるらしい』と書いていたりします。これまでの時代は未来像が描ける部分が多かったが、今は10年後や40年後の未来が分からない時代です。まさか首里城が焼失したりコロナの世界が来るなんて…、これからそんな未来がわからない時代に突入するんだと思います。だから次世代の人たちに復帰後50年を繋いで、何か考えてもらえたらと思います」
「沖縄に書店がないと困るんです!沖縄で出版した本は、ネットで販売されたりもしますが、9割が県内書店で売れています。だからこそその書店の皆さんが選んでくださったことが嬉しいです。そして復帰50年の年ではなく49年の今年に選ばれた事が嬉しいです。来年はおそらく復帰50年で色々な本が出ます、そこへの気持ちの準備に手にとって貰えたらと思います。そして沖縄に出版社がたくさんあることも知ってもらいたいですね」
会見の終わりに、私からも新城さんへいくつか質問をしてみた。
●次世代へ繋ぐという部分に、どんな事を期待していますか?
「次世代というのは『復帰って何?』と疑問を持てる限られた世代です。復帰を体験した世代は疑問を持たないことや考えもしない視点が、若い世代からは投げかけられます。僕らが思いもしない新しい疑問をどんどん出して欲しいし、それに影響されるように復帰を知る世代でも、あらためて新しい気付きを得て欲しいです。若い方の『若気のいたり』的な色んな気持ちことこそ、大事に繋いで考えるきっかけになればと思います」
●今回、本の受賞という話題をウェブ媒体「ふらびゅう沖縄」に掲載します。出版社をされている方から見て、本の事がウェブに書かれる矛盾や状況に疑問を持ちますか?
「全く無いです!1人でも多くの人の手に届くきっかけは、何でも良いと思います!僕なんかはやっぱり本を読むって紙で読みたいと思う人間ではありますが、タイトルを知ったり興味を持つ、内容を知る、そしてその本の存在を知るだけでも読書だと思っていますし、絶対に書籍じゃないとだめだと言うことは無いんですよ」
●ではウェブでしか本を読んだことのない世代に、書籍の魅力も教えていただけますか?
「本を手に取るというのは、予想以上に意味を感じたりもします。質感がそこにあってページをめくる『読む体験』は、後々に気持ちや思いが残り、残った本が目に入る時に思う気持ちもあります。後、本はプレゼントにも適しています。物というのは存在感があるので、人に渡すことで残る気持ちや生まれる気持ちの譲渡があります。今回の本も、復帰後を知る同世代や、県外にいる沖縄出身の人、またこの話を知ってほしいと思った次世代の方へ、贈られると嬉しいですね!」
この会見で私自身が久々に書店を訪れたことが、現代の本屋離れを表しているなと取材後に感じた。
昨年まで出版社で働いていたからこそ、頻繁に本屋へ行っていたのだが、ウェブ媒体になってからなからなか来る機会は減っていたことに気がつき、ものを書く仕事をしている身として逆に時代に取り残されたような恥ずかしい気持ちになった。
情報が溢れる今、定期的に立ち止まって時代を見る場所としても、本屋を訪れてみてはいかがだろうか?
気がついていない「自分自身」を見つめる時間に繋がるかもしれない。
EVENT INFOMATION
※イベントは終了しています
2021.11.21(土)
第3回 ゲキ推しの1冊!
この沖縄本がスゴイ!
受賞記念 トークイベント
場/ジュンク堂書店 那覇店(那覇市)
時/15:00開催
料/入場無料
登壇者/新城和博、ゲスト・宮城麻里子
問合せ/ジュンク堂書店 那覇店 098-860-7175
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