SPECIAL INTERVIEW

日本最北端の三線工房

クオレ三線工房

沖縄を代表する楽器・三線。
「音聞くだけでチムワサワサー、懐かしいし踊りたい」と県外に住む沖縄出身者はよく語る。そんな沖縄のDNAに刻まれた音色と言っても過言でない三線だが、実はチムワサワサさせたのは沖縄に住む人だけではない。
今回お話を聞いたのは“日本最北端”の三線専門店・工房である、クオレ三線工房の三上さん。北海道釧路市内でどんな経緯で三線工房は生まれたのか。遠く離れた北の大地で、北海道×沖縄の文化融合が生んだ逸品とは。教育現場にもオススメと語る三上さんの三線愛を-ふらっとVIEW-してみた。

海が大好きで通った沖縄で、まさに人生を変える運命の出会い

●三上さんと三線の出会いを教えてください。
元々は海に潜るのが好きで、スキューバ目的で石垣島などによく通ったんです。合間に散歩したり島を見てまわると、どこへ行ってもチャカチャカ三線を弾いてる姿が見えて、なんだか心地良いなぁっていう程度に見ていました。
ある時、ダイビングの予定が急遽なくなって本島北部を散策したんです。すると午前中なのに三線の音が聞こえて、オジィとオバァが庭先で盛り上がっているのが見え、「いいなぁ」と思っていたら混ざれと言われて(笑)。そんな楽しい思いをしたのが三線との出会いです。確か30歳過ぎだったと思うので、それからこの工房兼店舗を20年はやっていますね。

●沖縄らしさいっぱいの出会いですね!そこからどうして工房を経営するまでになったんですか?
半年に1回くらい沖縄へ潜りに行っていたんですが、段々とそれが三線目当てになってきて。40歳になる頃まで沖縄通いは続いていました。そんな中、三線は独学で始めたんです。今も大事にしている1本目の三線は、北海道釧路のディスカウントショップにたまたま売っていた2800円のものです。でも、八重山黒木より私にとっては大切ですね。
今でこそYouTubeで弾き方を探すのは簡単ですが、その頃は教材も多く無く、素人ながら基礎だけ動画を見つけて一生懸命に真似しました。

●それは大変でしたね!お手本が周りに無い環境、しかも沖縄から1番離れた北海道ですからね!
私も独学じゃダメだと思い(笑)、沖縄に師匠を見つけようと探しました。そこで「歌三線の演者」である師匠に巡り会い、色んな事を教えてもらいました。古典をされている方だったので、島唄や民謡を教えてもらい琉球笛もやりました。
師匠に出会ってから月2回程は沖縄に来ていました。気軽に行ける時代になっていたので、少し飲みに行く回数を減らし(笑)、2泊3日でお稽古に来てました。夜は国際通りでお酒を楽しみながら色んな人の演奏を見て、友達も出来てより楽しくなって。そうこうしているうちに、こんなに人を楽しませてくれる三線だから、自分の作った三線で他の人がもっと喜んでくれたらいいな、という気持ちが出てきたんです。

●それで、三線を作る方に興味が出たということですか?
とにかく1人でも多くの人に、三線の魅力を知ってもらいたかったんです。この北の大地から、南の良き文化芸能を発信したいという、現在のスタンスに辿り着きました。その頃は美容室を経営していて、同じ店内で工房を開き三線を並べて売り出しました。
美容室の名前がクオレで「おもてなし・気遣い・心使い」の意味があります。美容室を始める時に、その思いでお客様をお迎えしたくつけましたが、そのまま三線を通して皆様に喜ばれたらという部分では同じ気持ちなので、今もその名前を使っています。

●急に三線が並びだした店内、しかも北海道で。沖縄の楽器じゃないですか、お客様の反応はどうでしたか?
「凄いねー」と見ていく人が多かったです。北海道も独特の文化がある場所なので、外の文化、特に遠く離れた沖縄文化に触れる場面は少なかったと思います。パッと見て三味線と三線は何が違うの?と言う人も多かったです。それで私はヘアカットをしながら、お客様に三線のうんちくを語っていきました(笑)。
今はもう美容室は辞め、施設や病院へ訪問し寝たきりの方や外に出られない方のヘアカット・髭剃りをしてあげます。そこで少し演奏すると喜んでもらえて、皆さんに喜んで欲しいという想いは、ずっと共通して持っています。

北と南の文化融合・沖縄×北海道の唯一無二のオリジナル三線

遠く離れた北海道で、しかも北海道出身の方の手で、三線が人々を楽しませ癒やしているという事実に驚くと同時に、三線の明るい音色が心を揺さぶるのは、どの場所に行っても同じなのだなと感じた話であった。
そんな三上さんが作る三線には一体どんな特徴があるのか、今度は三線作りの場面を伺った。

●三上さんの三線作りについて教えてください!
手作りと言っても、私のやり方はパーツを取り寄せて組んでいる、ブーアティ(部当て)等をしています。沖縄で学んだ技術を持ち帰って、材料も全て沖縄から取り寄せて行っています。始めた当初は色んな場所に声をかけて取り寄せて試しましたが、今は懇意にしてくれる作家さんや工場の方に助けられています。三線の世界では名の通った方々とも、沖縄滞在中にしっかりを話をして、交渉をして今の環境ができたと思っています。
こだわっているのは「沖縄県産」、輸入パーツをあまり使わない様にしています。低価格で提供できる手軽なものには輸入材もありますが、可能限り沖縄のものがいいなと。ただここ10年ほど前から木材が無くなっていて、黒木、黒檀はどんどん高くなっています。これはうちだけでなく三線の世界、全体の問題で沖縄県の問題だと感じる時があります。三線も経済を支えている物で、これで食べている方も多いと思っています。だからこそです。

●ちなみに三線は注文後に作られるんでしょうか?購入者は北海道の方ですか?
注文を受けてからお客様好みに合わせて作るカスタムオーダーもありますし、私自身の想いや好みで素材を選び、組んであるものも常時置いてあります。工房には常に60本程は並んでいますが、どれ1つとして全く同じものはないです。そしてお客様は、圧倒的に沖縄の方が多くて6割は沖縄へお送りしています。材料を沖縄から取り寄せて北海道で組んで、また沖縄へ返す感じです(笑)。残念ながらまだ北海道の方は1割もいないです。残りは本州の方でネットで見ての注文です。見た目もそうですが、音色を録音してお届けしたり、オンラインでお伝えしたりもしますね。一番は自分で触っていただくのがいいんですが、すぐに旅行も出来ない昨今は、こういう機会も増えました。

材料が「北海道へ旅して帰って来る三線」という面白さもあり、三上さんが手をかけて育て里帰りに沖縄へ、と表現する人もいるそう。

北海道アイヌの手刺繍を施した胴巻き。落ち着いた藍色の生地に、手縫いならではの繊細な刺繍がくっきりと映えて、シックでオシャレと評判だそう。

●制作の中で、こだわっている部分はどこでしょうか?
もちろん、お客様に喜ばれることが前提なので、少しでもお安く丁寧に仕上げる、自分自身も手にとって良いと思えるものを作っています。そして、せっかくなので北海道のものを取り入れたオリジナル三線も手がけています。最初は胴巻き(ティーガー)に本物のアイヌ手刺繍を施しました。アイヌの昔から伝わる守り神やフクロウ・カムイ(神様)などを施すことで、北の大地のパワーを三線の音色にのせられたらと思いました。藍染がベースで文様自体はシンプルです。定番の沖縄の模様よりスッキリした印象です。刺繍は全て地元の職人さんに、手縫いで作ってもらっています。

●手縫い!凄いですね。だからこそ色の変化など、細部のディテールにまでこだわれるんですね!手刺繍をお願いした方に「三線に巻く」と伝えると、どんな反応でしたか?
凄く喜んでいました。しっかり事前に説明も行い「北と南の文化を繋ぎたい」と伝えました。デザインはとにかくシンプルにと注文し、オーソドックスなアイヌ模様にした方が神々しく高級感も出ると思いました。カムイ三線と名付け昨年完成したばかりです。
北海道と沖縄は地名や文化、顔立ちとかも少し似ていると言うか、通じるものがあります。私も彫りの深い顔立ちですから、旅行で沖縄に行っている時から、よく道を聞かれました(笑)。

アイヌの守り神フクロウの顔模様は可愛らしくユーモアもあり、クオレ三線工房のシンボルとなっている。

●確かに通じるものはあります!そして双方の文化がいい感じに融合している三線にも興味があります。
ここ1年温めた企画で、次は北海道の素材をパーツに使いたいと思っているんです。例えばエゾシカのツノを使ったカラクイです。様々な大きさや色味があり、美しい物をチョイスして世界に1本だけというものが作れたらと思っています。釧路はエゾシカを「食べる」ことは有名だけど、工芸品というのは無く、そんなに技術もなかったんです。それが最近、ネットで調べていると「エゾシカ倶楽部」という色んな方が集まるコミュニティを見つけて、シカの肉や皮・ツノなどの全てを無駄なく加工していると紹介されていました。
今、北海道では野生のシカが増えすぎて駆除の対象になっているんです。北海道の環境問題として大きく騒がれています。数が増え過ぎてしまい、間引きされて簡単に殺傷し廃棄されているのが現実なんですが、できれば少しでも命が繋がればと、再利用を考えて動けるひとつになりたい想いをもっていました。シカを捕まえるハンターがいて、肉以外のこれまで廃棄していた部分も、バッグなどの加工品として定着させようという流れが出てきています。
エゾシカ倶楽部の会長にコンタクトを取り、三線のカラクイを作れないかと相談し、細かい加工ができる方を紹介してくださいました。後は加工の仕方を詰める段階になっています。同じようにバチ(ツメ)も考えています。これから音色はどうかを試し、研究を続け商品開発をしていきます。

完成したばかりのエゾシカの角でできたカラクイ。それぞれに個性があり味わい深い触り心地だ。
赤目の木材に映える美しい、ふんわりした白が女性らしくもある。
ひとつひとつが丁寧に手作りされていて、非常に丈夫だ。


他にも実現したら面白いと、賛同してくれた周囲と取り組んでいるのが、ニシキヘビの胴にエゾシカの皮を施す加工です。ニシキヘビは柔らかくて見た目が上品な為、バックや財布に使われることは定番です。それを三線にも使えたら、ナチュラルな白い皮は音色も優しく柔らかい響きになります。音の角に丸みが出る、新しい心地良さを味わってもらえると思っています。

最近は釧路市の工芸家と北海道産の木材「ナラの木」を使った、素材作りにも挑戦中との事。エゾシカの皮を使い、エゾシカの角のカラクイで、素材はオール北海道生まれの「えぞ三弦 Ezo」を試作しているそうだ。
木材の細かい調整が行われている最中で、このまま上手く進めば6月お披露目ができるかもと話してくれた。
環境問題となっているエゾシカの肉以外の利用を、地域の様々な機関と協力しながら考えていく様子と、そこから生まれた沖縄文化の三線が注目され、北海道の地元紙でも度々ご紹介されている三上さん。

オンラインインタビューの画面先で弾いてくださったニシキヘビ三線は、電波を通じても感じる、軽やかで柔らかい音色が特徴的だった。今後は皮の張り方、角度や力加減で音色がどう変わっていくかが楽しみなのだとか。

●ゆくゆくは沖縄県内での販売も考えていますか?
もちろん一度は実現させたいです!札幌の百貨店では実演販売も何度か行っていて、4月にも販売会をしたばかりです。その時はエゾシカのカラクイを持っていきました。沖縄の方にも実際に手で触れていただき、その出来栄えや音色を確かめてほしいです!やはり本場の方には見てもらいたいですね。


●三上さんは三線作りや販売以外にも、挑戦されていることがあると聞きました。どんな事に挑戦中ですか?
ゆっくり水面下で話をしているんですが、まずは北海道、そしていつか全国的にも、小学校や中学校の音楽の授業で、三線など郷土楽器を習う機会が増えると良いなと思っています。学校で習う楽器といえば縦笛が定番ですが、あまり将来の自慢になったり特技に発展はしにくいと思うんです。これが三味線や三線など、土地の文化を感じて長く続けられるものだと良いなと思ったんです。弾きながら歌えるのもいいですね。
将来「沖縄の三線が弾けます」という学生が、北海道で増えていくと面白い地域交流になると思います。楽器を通してマナーや考え方、文化への想いも学べる機会になるんじゃないかと考えます。沖縄の学校現場でも三線にふれる機会が減っていると聞きました。三線に限らずその地方で、琴や横笛など日本の文化に触れる授業が増えることを願っていますね。

エゾシカの皮を美しい白に近い肌色ヌメ皮で仕上げ、沖縄でも定番として見かけるアジアンチック柄の胴巻きを合わせた1本。
エゾシカの皮をナチュラルワックス仕上げに。皮のどの部分を取るかによって、模様が浮き出て美しい仕上がりになる。こちらは江戸和柄の胴巻きで、袴などにも似合う特徴ある1本。
上と同じくエゾシカの皮のナチュラルワックス仕上げ。皮そのものの模様が特徴的なので、同系色の胴巻きでシンプルにシックに仕上げた、スタイリッシュな1本。
エゾシカの皮を、デニムと呼ばれる黒っぽい濃い藍色に染めた艶が美しい1本。そしてアイヌ刺繍・カムイティーガーの胴巻きで、ここでしか手に入らない、神々しく格好いい1本。

●では最後に、三上さんにとっての三線はどんな存在ですか?
自分にとって三線は「生き方」になっています。趣向品とか趣味を越えて、とても大事なものになっていますね。三線バカの自覚はありますね(笑)。ヘアカットなどで施設を回るときには、三線も持って行き民謡や童謡を歌って、皆さんに楽しんでもらっています。手を叩いたり足踏みしたり、誰でも知っている簡単な曲に三線を取り入れて、身近に感じてもらっています。
そんな取組は身近な釧路だけでなく、いつか全国、色んな場所へ、まずは北海道中を三線を持って周りたいですね!もちろん沖縄へもオリジナル三線を売りに、そして北海道の伝統工芸の良さも広めに行きたいです!

最新作のえぞ三弦 40000円〜。北海道内でも数が少ない優佳良織とのコラボ作品。鮮やかなブルーのグラデーション模様は、オホーツク海の流氷のイメージだそう。

文化の愛し方、伝え方、残し方は多種多様。全てにそれぞれの想いがある

昔から伝わるその土地の文化や伝統には、非常にデリケートな部分があることも確か。そんな様々なこだわりと想いが交差する中で、多様化が進む現代では「自分で選択する楽しさ」も存在している。
「これが好き」という気持ちは、きっと世界どこへ行っても同じはずだと思う。土地を越え、文化を越え、言葉を越え、みんなの想いが重なる先には、未だ見ぬ新しい発見と希望があるということを、今回は北海道と沖縄の文化が融合する三線が教えてくれた。
三上さんの作ったオシャレな三線、見た目も音色も沖縄を愛する多くの方に響いてほしいと思う。

クオレ三線工房 部当てィ師りんぺい三上
釧路、2001年頃に美容室兼三振工房をスタート

SHOP INFOMATION

クオレ三線工房​
場/北海道釧路市鳥取北6-4-10
  藤原マンションD
電/090-8427-7333
問/cuoresansin946@gmail.com
公式サイト/https://www.cuoresanshin.net/index.html
販売サイト/https://sansin.base.shop/
YouTubeチャンネル/三上倫平


クオレ三線工房

クオレ三線工房

-クレオサンシンコウボウ-

web

住 / 北海道釧路市鳥取北6-4-10 藤原マンションD

電 / 090-8427-7333

休 / 無休


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