園子せんせいは定時あがり Vol.3


【6月は美味しいものを】

YouTubeもネットフリックスも取り入れない我が家のテレビは、もっぱらEテレとニュースである。
つい最近コロナのワクチンがほぼ全国民に行きわたったという報に「へー」と思っていたイスラエルが、パレスチナへの爆撃を開始し始めたという(5月末現在停戦中)。わが子を殺され泣き叫ぶ母親や、瀕死の重傷者の姿に画面のこちら側で、泣けてしょうがない。膝で一緒に見ているムスメは、ぼたぼた涙を垂らす私をいぶかしげに見ている。

6月がまた巡ってきた。
毎年初夏の平和学習は、沖縄の子どもたちにはおなじみである。図書館前に白黒の、あの残酷な大きな写真が張り出され、恐ろしさのあまり見ないように通り過ぎた記憶もある。教職についてからはこれぞいちばん大切な教育だと思いつつも、新学期スタートの目まぐるしさが一段落もつかない現場では、練った教材研究もできずにいた。
けれど今年は、平和教育担当の先生の熱意と工夫に便乗し、数日前からいろいろと考えてみた。

生徒に、「戦争、また起こるとおもうひと?」と訊いてみた。
半数が手を挙げた。
「起こるとおもう」と手を挙げた男子に理由を尋ねると、「べつに。起こんじゃね?知らんけど」と、まるで他人事である。「あなたすっごい他人事だけど、もし戦争になったら真っ先に当事者だよ?」と彼をじっと見つめる。ほかの生徒が、ああ、と少し笑ったり、「だーるな」とうちあたいしたりする。

戦争を起こさないためには?
という問は、もう使い古されてしまった。生徒も、義務教育からそんな感想文ばかり書かされて、そつなくまとめるテンプレさえ暗記している。毎年暑い体育館で、体験者の話を聞くのもダルい。そんな生徒もいる。

にやりと笑う。こういう授業は大好きである。
「さあ、想像してほしい。君たちは王様で、戦争がしたい。戦争を起こすには、どうしたらいいかな?」
素直な生徒たちがざわめいた。教室でひたすら戦争ものの本ばかり読んでいる男子に、話題をふる。彼は少し考え込んで答える。「まず、景気が悪いのを他国のせいにする。戦争すれば景気も良くなるし、領地も増えて給料も上がるよって国民に話す」。クラス中、「さすがだなー!」と笑い声が満ちる。いつも賑やかな女子が「いや、無理。そんなんで戦争とかいや」とつぶやく。ほれ、彼女いやって言ってるよ、どうする?こういう国民をその気にさせなきゃ、と私は煽る。
「メディアを使いますね。戦争がかっこいいっていう刷り込みをする」と彼は続けて言う。私は頷きながら、YouTubeとかTikTokで若い人たちに向けてそういう動画流すとかいいかもね、と板書する。生徒たちは「やばいだろー」とワイワイ言いながら、あるいはお互いを不安げに見ながら、黒板に書かれた「戦争の起こし方」を目で追う。
授業のあとの感想には、「戦争は起こる」と手を挙げたあの男子が、「思ったより簡単に戦争になりそうで、怖くなった」と書いていた。

戦争で亡くなったひとの気持ちを考える。
戦後すぐならば、恐怖、絶望、悲しみ、怒り、恨み、怨嗟の声が渦巻いていただろう。
でも今は?
もちろん子孫の末永い平和と安寧を祈るだろう。
二度と道をあやまたず、家族や友と歩めとむんならしーするだろう。
で、私はさらに具体的におもうのだ。亡くなったひとたちは、私たちの何を喜ぶのだろう?
私はおもう。きっと私たちが美味しい食事を囲んで、笑っていることを望むはずだ。
一度、6月23日に、外国人のファミリーを招いて食事をすることになったことがある。
朝から作った。ジューシーを炊き、天ぷらを揚げ、唐揚げを揚げ、ナスの揚げびたしを作り、豚汁を作り、ハンバーグを焼き、サラダを作った。時間があればまだまだ作っていたはずだ。育ち盛りの子供たちもいたが、食べきれずに残るほど作った。美味しいワインの栓が抜かれ、宴は夜中まで続いた。

きっと、それでいい。美味しいものを食べて、いっぱい笑おう。こんなご時世だから、家族と。
家族と笑いあえるって、じつはとても尊いことなのだなと、生徒の複雑な家庭を見て、しみじみそうおもう。家族和合を取り、生き生きとのびのびと、軽口を交わす日にしよう。
黙とうをしたら、台所に立って美味しいものを作ろう。家族の好物をたくさん料理しよう。
それが、あの戦で亡くなったひとたちの、一番したかったことなのだろうから。

■筆者information
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