★コラム12 建築営業（T建設）

社会人、第二章スタート

教師を辞めた後、次の仕事に就くまで本当に苦労しました。何の準備もしていなかったため、どうすればいいかが全く分からず、路頭に迷いました。今まで公務員という肩書きに守られていましたが、それを失い、ただの男になりました。これまでの経験は全く頼りになりませんでした。
まずは職探し。頭に浮かんできたのは「ハローワーク」。インターネットで求人票を検索しましたが、教師と同じくらい稼げる仕事はなかなかありません。あるとしても医者や設計士で、当然私はその資格を持っていません。今まで経済的にどれだけ恵まれていたかが初めて分かりました。「同じ給料をもらうのはムリだ」と、きっぱりと諦めました。そうすると、選べる職の幅が一気に広がりました。さぁ、何にしようかな？一種のワクワク感さえありました。
そうこうしていると、「建築営業」という文字が目にとまりました。仕事内容を調べてみると、設計事務所を周り、設計士から施工案件をもらう仕事だということが分かりました。

那覇のハローワークに足を運び、気になる会社に連絡を入れてもらいました。それから、面接を受け、その日の内に採用が決まり、私はT建設に就職しました。
スーツを着て、バスで通勤することに憧れていたので、それだけでテンションが上がりました。それから、人生で初めて名刺を持ちました。

働き始めて、嫌だと感じることがいくつかありました。職場の方が私のことを「先生」と呼ぶんです。多分、からかいもあったと思います。「ちょ待てよ。私、アナタの先生じゃねーしっ！ 」とは言えず、ただただ、耐えるしかありませんでした。
ハローワークに出ていた求人票には土日は休みと書いてありましたが、フタを開けてみると全くのウソで、土曜日は全職員が出勤しなければいけませんでした。私は即座に社長に抗議し、土曜日は隔週で休むことになりました。しかし、これは私だけの優遇であり、この件に関しては先輩から「自分だけ、よく休めるな」「休みは週1日で十分」と言われたので、周囲からはひんしゅくを買っていたと思います。後になって気付きますが、こういう虚偽の求人を出す会社って、ブラック企業っていうんですよね。

ある日、小1の長男に教員を辞めたことを告げると、「そんなの、イヤだー」と言って、泣き出してしまいました。私のことを誇りに思ってくれていたのかもしれません。ごめんなさい。

営業初心者だった私は、1週間、先輩に同行して、仕事のノウハウを見て学びました。先輩はこの道のベテランで経験や知識が豊富なので、お客様とのトークもスムーズです。同じことが私にできる訳がありません。

仕事は楽しくありませんでしたが、唯一の楽しみは昼食でした。毎日外食をしたおかげで、私のグルメ魂に火が着きました。最初は「自分だけ美味しい料理を食べて、悪いな」と家族に対して申し訳ない気持ちがありましたが、それも日が経つにつれて、自然と消えていきました。怖いですね。

1人で営業するようになり、解放感からか楽しく感じました。しかし、教員時代にお世話になった保護者や先輩に仕事中、偶然会ったことがありますが、驚きと恥ずかしさで逃げ出したくなりました。

入社して1ヶ月が経過しましたが全く実績を上げることができず、次第に自信を失っていきました。「どうせ、ムリだ」とネガティブな考え方になり、訪問先のチャイムが押せず、そのまま引き返したことが何度もあります。どうしても、この仕事のことが好きにはなれませんでした。

楽しみにされていた初給料は満額の6割しかもらえませんでした。理由を聞くと、日割り計算したそうです。私が土曜日休んだ分はきっちり引かれていました。

仕事の後に他社の面接を数回受けましたが、ことごとく不合格。改めて「教員って、使えない人材だな」と現実の厳しさを知りました。

これまでは当然のように冬季休暇が一週間以上あったので、12月30日まで出勤することには驚きました。公務員って休みが多いんですね。年始も1月4日から仕事だったので、休んだ気がしませんでした。はっきり言って、甘ちゃんでした。

実績ゼロが2ヶ月続き、社長から「成果が出なければ、辞めてくれ」と嫌みを言われ続けました。自分でも「この仕事は向いてないな」と思っていた矢先に、休日に自宅でくつろいでいたところに会社から電話が来て、「来週から来なくていい」と言われました。ガーン。突然の解雇通告に言葉も出ませんでした。後になって知りましたが、解雇する場合は1ヶ月前に伝えないといけないそうです。無知な私はそんなことも知らず、素直に従いました。この会社、1ヶ月後には倒産し、社長は給料未払いのまま、どこかへ逃げたようです。私は給料をもらえた分、ラッキーだったのかもしれません。

次回はパーラー定員の話をしたいと思います。